「先祖の主屋を記念館に…」

【 第6回 新民家部門 】

「先祖の主屋を記念館に…」

 施主の大西さんご兄弟から「明治時代から引き継いできた屋敷を残すため、様々な手を尽くしてきたが止むを得ず解体することを決断した。そして敷地の一部に主屋の古材を活用して記念館を新築したい…」とのご相談を受けました。ご相談から住宅の調査・解体・造成・建築工事と完成まで約1年半を費やしました。
大西家住宅は豪農の屋敷として資料価値が非常に高いため、まず主屋の資料を残すための調査を京都美術工芸大学工芸学部 井上年和先生にお願いしました。結果、新築された記念館の土間には大西家住宅の主屋の模型が展示されることになりました。
記念館の様式は予てより暮らし方研究会でシリーズ化していた「日本の民家」のプランをご提案。共感と賛同をいただき記念館としての仕様にアレンジして着工・竣工しました。
何処か懐かしい日本民家の外観と典型的な民家の間取りを踏襲し、解体された主屋の大梁・柱・天井板・建具を活用することと併せて、伝統と歴史を伝えるに相応しい重厚さと安定感が再現されたと自負しています。更に、土間には三和土、壁は弁柄色とし、130年間住人と連れ添った懐かしい主屋の雰囲気を少しでも感じていただけたなら幸いです。
施工をお願いした野原工務店さんには1年間にも及ぶ作業場での古材の管理、そして古材の再活用と大変なご苦労をおかけしました。約7ケ月の工事期間中に丁寧な仕事ぶりを拝見できたこと、素晴らしい職人さん方に出逢えたこと。主屋の解体工事、古材の生け捕り、造成工事、古材を使った工事、などなど大変貴重な体験をさせていただき心に強く残る現場となりました。

玄関
主屋解体時に、長さ13メートルあった大きな梁と45センチ角の柱を生け捕り、三和土の土間に活用。以前の主屋土間に似せた弁柄色の壁は空間に馴染んで風格があります。
格子戸・舞良戸は解体した主屋の建具。手前の展示は龍吐水ポンプ。
テーブルの天板は主屋座敷の脇床の欅玉杢床板を活用しました。障子も主屋の建具。
 解体前の建物見学会で、ご当主の大西孝之介さんは「本家屋は明治20~30年代に高祖父・大西嘉兵衛が建築しました。昭和63年まで居住していましたが、それ以降は空き家の状態で、建物の一部を改築し蔵の取り壊しを経て今に至っています。栂材メインの普請で構造材や建築材は今や入手困難とさえ言われており、一部に古材を使用した小さな資料館を建築する予定です。」と計画を述べておられました。
 弟さんの大西雄之介さんも「私たち兄弟の曾祖父は先進的な農業手法を取り入れたり、当時暴れ川であった神崎川の治水に努力を傾注したりと、村のために尽力した新進気鋭の人物であったようです。」と想いを述べられておられました。

建設地大阪府摂津市
構造在来工法
階数二階建て
延床面積106.45㎡
家族構成非公開