ならのきの家_築175年の住まい再生物語

【 第9回古民家再築部門 】

ならのきの家_築175年の住まい再生物語

『ならのきの家』は江戸末期に建てられた、住まい。
当時から屋号として『ならのきさん』と呼ばれていた事から、設計中・工事中からこの住まいの愛称として呼んできました。
敷地内にはこの建物とは別に築20年ほどの民家があり、ご家族は20年前よりそちらで暮らされ、『ならのきの家』は風を通しながらも時々子供たちが遊ぶ場であったり、施主さんのお仕事でもある園芸の活動の場として利用されていたそうです。
「この家を残して欲しい」
今は亡きお父様の遺言により、茅葺にコロニアルを載せたままひっそりと佇んでいた建物。
5年ほど活用方法を探ってきていましたが、土間部分をカフェやイベントなどでの利用も可能とし、最終的には離れでの暮らしからご家族で母屋に戻る方向性で設計方針も決まりました。
古い建物の良さを残し、耐震性と温熱環境を整え現代でも暮らしやすくというコンセプトの元、
基本的には元の佇まいを活かし、古い建具なども利用していますが、住居部分にはアルミサッシやアルミ雨戸も使用しながら
戸袋は大工造作で納めて、外観の趣きを残す工夫をしています。
また構造材は一度解体し、洗いを掛け組み直し耐震性も担保できるよう、基礎などもやり変えました。

そのため「伝統構法だからこそ可能な、再生の方法を近隣の方にも知って欲しい」
施主ご家族の想いで地域の方を招いての昔ながらの上棟式も行い、大変好評でした。


『次の世代に住み継ぎたい』
施主の想いをカタチとし、
もう100年暮らしていける住まいとなりました。

カフェスペース。
既存の土間部分は大梁こそ表しでしたが天井が貼られていたため、梁を表しとして、架構の美しさを見せながらダイナミックな空間としました。

また飲食店としても使用できるよう、保健所から営業許可も取っており、
現在は園芸講習などの教室に使用していただいています。
トイレと手洗い。
以前の住まいのトイレで使用されていた、明治期のヴィンテージタイルをリユースしました。
丁寧に剥がしたタイルは、不二見焼きを発祥とする『不二見タイル』の物とわかり、吊戸棚に使用した古い建具とも相まって良い雰囲気を出しています。
築175年のこの住まいの活用を、企業や行政に託す方向など姉妹で長い事考えてきていましたが、最終的に私たち家族が住む事に決めました。夏は涼しかったのですが、冬寒く、現代の暮らしに合わなかった間取りを減築してもらい、冬も暖かく住みやすくなりました。父の想いを無にする事なく再生でき良かったと思います。しっかりと再生してもらったので、次の代に引継ぎ大切に住み継いでいって欲しいと願っています。

建設地埼玉県川口市
構造伝統構法
階数二階建て
延床面積257.19㎡
家族構成50代夫婦とお子さん、80代親