大垣城下の町屋×フレンチレストラン

【 第6回 古民家再築部門 】

大垣城下の町屋×フレンチレストラン

 水の都大垣。山車行事がユネスコ文化遺産に指定されているこの町で、新たな文化が生まれました。
 戦後復興最盛期に建てられた大垣の町屋を、往時の職人の技術・感性を残しながら再生したレストラン「和モダンフレンチ高橋」。大垣城公園正面に位置する御殿町にあり、近隣には市役所、税務署、裁判所が軒を連ねています。
 大垣の市政をつかさどるこの町で、エグゼクティブに認めていただけるプラン・材料・インテリアにこだわりました。
  

【 エントランス 】
 のれんをくぐると建物の奥行きを一目で見渡せる土間が現れます。
 昔ながらの町屋では、奥は「卦(け)」とされ家族のスペースでしたが、このレストランでは奥が一番「晴(はれ)」の間としました。
 「プライベートである」店の奥を晴れとするのは、ヨーロッパの貴族文化の考え方です。町屋をフレームとして、日本と西欧の感覚・文化を掛け合わせてプランしています。
【 バーカウンタ―=取り次の間 】 
 入り口土間を通り抜ける際「取り次の間」としてバーカウンターがあります。
 取り次の間といえば、日本では畳を数枚敷いて指をついて人をお出迎えする場所です。が、フレンチですし店舗ですので西欧風に土間です。
 外国では、テーブルの用意ができるまで一杯のアルコールをいただきながら待つ習慣があり、そんな日本の文化と西欧の待合バー文化を融合させました。
 「取り次ぎバー空間」の奥には「通り庭」。 奥をひといきには見せない日本建築のエスプリのおかげで、入ったばかりのお店からまた庭という屋外に出ることになります。
 そしてレストラン客は、いよいよ出てくるお料理に向け期待に胸が高鳴る。そんな高揚感をお持ちになるそうです。
【 シェフ・高橋篤史さまより 】
 フレンチレストラン、というとかしこまって食すイメージがあるみたい。でも僕の料理は、ソースやオードブルはもちろん、パンに使う麹まで自分の手で仕込んだ、「温かい料理」なんです。格好つけて背筋を伸ばしながら食べてほしくない。それなら、とがった店は作らず、昔ながらの大垣の地に育まれた木造の建物でサーブしたいと思いました。 最初は川べりの古民家を選んでいたんだけど、設計士の吉田君が「ここはボロボロすぎてものすごく工事にお金がかかりますよ。」というもんだから、やめたの。建物のせいで料理を高くしたくはないですから。
 そのあとの一軒も、吉田君に見てもらって「うーん」といわれてやめました。こうして2年くらいかけて、じわじわ探してようやくたどり着いたのが、大垣城の目の前の一等地。本当にありがたかったですよ、設計だけでなく自ら現場に入って工事もしてくれたし、最後は料理の値段までアドバイスされちゃった。自分でも熱心に京都とか東京とか歩いていたけど、経営のことも考えて建築してくれたのは本当に気にいっています。責任感がある人たちは何でも自分でするんだなと(笑)。僕も自分でやらないと気が済まないタイプだから、よく気が合いました。
 ちなみにメインのカウンターは、厚み6㎝もあるヒノキの一枚板!もちろん節がない。3年も前に友達の製材所で見つけて唾をつけてあったのを使ってもらいました。聞けば、東濃檜といって、それなりの有名なものらしく、「反ったり傷が増えたら、外して削れるように」カウンターに仕込んでもらいました。椅子も、ヨーロッパのデザイナーの一流の椅子。こうやっていい材料を使って、また今からこの町屋がアンティークになっていくように願います。この建物も材木もインテリアも、素材の命と作った人の気持ちで時代を超えてほしい。

 まだ、川べりの一軒家でかっこよく料理をサーブする夢は消えていないから、古民家再生協会の活動にも期待していますよ。良質な古民家を一軒でも多く残して頑張ってほしい。そしていつか僕とも共同しましょう。

建設地岐阜県大垣市御殿町
構造在来工法
階数二階建て
延床面積145.06㎡㎡
家族構成50代シェフ