西日を受けとめる家

【 第5回 古民家再築部門 】

西日を受けとめる家

かつて小料理屋を営んでいた店舗兼住宅を高齢の施主のため改修した住まいである。
設計にあたり3つのことを考えた。一つは『光』、二つ目に『気配』、そして『家を残す』ことの意味である。

『光』について
敷地は間口2間、奥行12間の典型的なうなぎの寝床で、東と南には近接して家が建ち、北側も今は空き地だがいつ家が建つか分からない。採光を確保できるのが道路に接道する西側だけであった。そこで思い切って西側を全て開口部として光を取り入れることを考えた。ただ、何の工夫もなく西側を開口とするだけでは強烈な日差しに苛まれてしまう。西日は遮りつつ、光は取り入れたいという矛盾するテーマを解決するために、二階の床をスノコとした。一階だけでなく二階の窓から取り入れた光をスノコを通して拡散し下階に落としている。そしてスノコの上には畳を敷けるようにし、夏はスノコで過ごし、冬は畳を敷くといった使い方も可能である。そして建物の前にスノコバルコニーを設置し太陽高度が低い冬の午後にも光が直接目に入らないよう干渉する役割となっている。またこの開口部は玄関でもあり、玄関土間を三和土とし冬に三和土に西日があたり、土の保温力によって熱を蓄え、夜に放射する効果を持たせている。西側の開口部を光だけでなく熱エネルギーまで利用することで快適な空間を作ろうとしている。

『気配』
高齢者と暮らすにあたり、段差はなくすことはもちろんだが、『気配』を感じることが出来るよう計画した。スノコは光だけでなく音も伝えるので二階と一階に別々に行動していてもお互いの気配を感じることが可能である。また建具も葦簀のような透け感がある建具や建具の上部・欄間をオープンとし、姿が見えなくてもお互いを感じることができる、家全体をワンルームのような空間となるよう計画している。

『家を残す』
出来るだけ家を残したいと考えた。それは躯体や建具といった有形物を残すという意味だけでなく、新しい家でも間取りを解体前の家に近づけるようにした。そうすることで家は新しくなっても住む人はかつての間取りを体で覚えているため新しいのに既に知っている家のように振る舞えるのではないかと考えたからである。かつての家の記憶を新しい家でもつなげることを意図した。


こうして出来上がった建物は木製の小箱のような佇まいながらも、家族のつながりを感じ、穏やかで柔らかい光にあふれた優しい家となった。

建物正面。光を最大限取り入れるためほぼ全面を木製サッシとしている。サッシに中桟を入れてすべて正方形のグリッドで構成されているようにし、木製カーテンウォールのような表情となっている。
玄関から室内を見る。居室はシナベニヤの壁、キッチン等水廻りは漆喰の壁で囲い、素材を対比させて白い『箱』感を出している。天井は構造現しとし根太まで古材を使い不足分は根太と同材をスノコとして新しく敷いた。いわばスノコが根太の役割を果たしている。スノコは施主一家と柿渋塗装した。建具はかつてお店で使っていた葦簀建具を再利用。建具欄間には静岡市らしく富士山と清水湊の帆船が透かし彫りで入っている。箪笥は70年前の嫁入り道具をリペアして使用、思い出の物に囲まれて暮らせるよう計画した。
二階、介護人室。スノコの上に畳を敷いた。壁は同様にシナベニヤ、天井は構造現しとし古材を見せた。下階に影は落とさず光を落とすため収納を浮かした。また浮かすことで空間の広がりも確保している。

建設地静岡県静岡市
構造在来工法
階数二階建て
延床面積72.86㎡
家族構成60代夫婦と90代の親