子どもたちに伝えたい家

【 第5回 古民家再築部門 】

子どもたちに伝えたい家

【想い】
「少しくらい寒くてもいい。古民家に住んで、心が豊かになる生活がしたい」
そんな想いをもったS様ご夫婦と出会いました。

江戸時代より東海道大井川、川留めの宿場町として栄え、大正・昭和期には木材の製材量日本一となり木材産業都市として発展をつづけ、活気に満ち溢れた島田市。
その街中で三年に一度開催される日本三奇祭の一つ、「島田大祭」の賑わいの中心部にあるこの古民家はそんな景色を見続けてきました。

古き良き時代の町衆の息づかいが伝わってくる土間の柱や梁、黒漆喰の塗り壁。

家主がいなくなり、色あせ解体される寸前でしたが、ご夫婦の想いが伝わったのか、突如としてその姿を私たちの前に現しました。

「子どもたちに、古来より伝わってきた古き良き住文化やモノの大切さを古民家に住むことで体験させたい」

弊社ではお施主様の想いに感銘を受け、古いモノを最大限に活かしつつも、足りない所には同じ時代の資材をリサイクルし「人・まち・自然」の環境に配慮した空間づくりを目指しました。

街中で新しい建物がひしめく環境の中にひっそりと残った築80年のこの古民家は、お施主様と弊社の熱い想いで最高の住空間が創造されここに完成をみました。

【素材】
「残されていた家財道具・素材」

この古民家をお施主様が購入した際、多くの家財道具が残されていました。古くて良いモノや、珍しい変わったモノもたくさんありましたが、その中でも古いミシン台を利用してタイル貼りの流し台を取り付け、昭和の雰囲気を醸しだす、ご夫婦が大満足の洗面化粧台が完成しました。
正面の鏡も残されていたモノで、朽ちた額縁を取り払い、新しい額縁を取り付け、新品同様に生まれ変わりました。

照明器具は全て当時のモノを使用し、温かいほのかな電球色が室内の雰囲気をより良く高める効果を担っています。

新しく付け足した内装材には、新建材は一切使用せず大井川流域材を主体とした静岡県産木材を使用し、ご家族様の健康面にも配慮しました。

【デザイン】
町屋古民家であるこの建物は、町家であるがゆえに車を駐車するスペースがありません。

何とか駐車するスペースが欲しい。

思いついたのは、土間スペースを少し拡張したビルトインガレージでした。車が入るスペースとなるので、コンクリートを打設したのですが、コンクリートをそのまま洗い出し仕上げにし、大小様々な骨材が絶妙なバランスとなり内部空間の雰囲気と非常に合いまった仕上がりとなりました。
車が無い日中は、土間に日差しが入り込み物干し場としての使用の他、子どもたちの格好の遊び場所となります。

また当初、玄関横の窓には格子が付けられていたはずなのですが、過去の修理の際に取り外されてしまったため、町屋の意匠を元に戻す目的で、窓格子を復活させました。玄関左側の窓格子は、今では忘れ去られてしまったこの地域特有の町家古民家の意匠です。

格子の隙間から入り込む陽の光が、冬はその影が何とも言えない温かさを醸しだし、夏の夕方は格子越しの外の景色が風鈴の音と共に、得も言われぬ風情となります。

【お施主様の声】
「古さの中にある“良さ”を、頭で理解するのではなく、体で感じてほしい。使い込んだ良いモノの価値を見出せる人になってほしい。子どもたちにはそんな人になってほしいと思っています。新しいモノは簡単に手に入るけれど、年月を経て得ることのできる価値はそのモノにしかありません。そんなことを自然と感じることができる住まいが完成しました。
元の古民家の雰囲気を活かしながらも、きちんと現代の生活に必要な要素も取り入れることでとても快適に過ごしています。部屋も、壁で仕切るのではなく建具で仕切ることにより家族の気配を感じることができますし、戸を開き、開放すれば子どもたちがのびのび遊ぶこともできます。家族みんなが自然と繋がっていると感じることのできるこの住まいをとても気に入っています」(ご主人様)

「新しい木の香りと古い家の匂いが帰宅した時に感じとても落ち着きます。4歳になる娘は柱で木登りの練習をしたり、床の間でままごとをしたり。1歳になる息子は建具の小窓から顔を覗かせケラケラ笑ったり、土間で歩く練習もしています。私たち夫婦だけではなく、子どもたちもこの住まいをとても楽しんでいるのが何よりも嬉しいです。そしてお客さまをお迎えしたときに自然と膝を付いて座る。自分が少し丁寧になれる気がして好きです。」(奥様)

建設地静岡県島田市
構造在来工法
階数二階建て
延床面積106.81㎡
家族構成30代夫婦とお子様2人