地域資源と創るくらしの拠点「豊栄くらす」

【 第5回 古民家再築部門 】

地域資源と創るくらしの拠点「豊栄くらす」

この場所は、広島県東広島市の農業地帯であり、市のど真ん中に位置することから「へそ」と呼ばれ親しまれた「豊栄町」の主要国道沿いに位置します。
その昔宿場町として栄え、賑わいをみせた豊栄商店街でしたが、急速な過疎化と高齢化に伴って、今の豊栄は閑散としています。
「豊栄のまちを再び元気にしたい」という理念を共有させた地元の企業が一丸となり、ここ豊栄から新たな価値を発見し次世代へつなぐプロジェクト「豊栄Reプロジェクト」をスタートさせました。
その最初の取組みとして、かつて商店街の賑わいの中心だった築80年の古民家「栄屋百貨店」跡を「気軽に集え、若い世代と交流できる場」に生まれ変わらせ、「豊栄くらす」として新たに発進させています。

ここでは、関わる全ての人が地域資源の価値を再考するために「資源の再配置化」をコンセプトにしており、建築家は、段階的に地元の小中学生や大人、建築を学ぶ大学生たちにも実行できる建設プロセスを構築しながら、施工業者さんと一緒になって、廃材の利用方法や施設の将来像や新しい活用方法の提案→実行に関わることができる「地域接続型」の再築計画を実践しています。さらには、筋交いや木毛セメント板による耐震補強や用途変更の申請などを行うことで、合法的かつ安心さも確保した地域交流拠点のモデルケース的改修方策の検討も行っています。
施設計画は、産直販売や情報展示など様々な用途で活用できるような「まちの玄関」と豊栄町の地元農家で育った野菜や果実をその場で調理できる「まちのレストラン」となる調理スペースで構成されています。もともとあった2階の床をほとんど撤去することで、積載荷重を大幅に減らす「減築」という構造改善方法を応用しながら、同時に2階窓からの暖かな自然光を取り込み、空気が緩やかに循環する開放的な地域交流空間を創出しています。吹き抜けて大きくなった既存躯体の中に挿入した入れ子状の厨房ボックスは、新しさと古さを融合させるためあえて新しい無垢材で包むことで、利用していただく全ての世代の人が長く滞在してもらえるような懐かしく居心地の良い空間づくりを演出しています。吹抜けには2階の押入れはそのまま残してあり、何か地域のものを飾ってもらえるスペースとして将来的な余白の空間を残しています。道路に接した外壁面にあった開口部には「交流ベンチ」を設けており、時折、ここを開放して産直市場が開かれています。

「まちの玄関」となるフリースペースでは、使い勝手やフレキシブルさを意識して、レゴブロックのように積上げたり並べ替えたり、連結できる格子状の「くみこ棚」を配置しています。この「くみこ棚」も設計や施工を地元の学生達が奮闘しながら行っており、今では地域住民や利用者が自発的に様々な展示やイベント・催し物をする際に自由にレイアウトしており、地域交流づくりで極めて大事な「楽しみながら考える」という行為を育てています。
また、入口からすぐ目につく壁には黒板塗料を全面に塗っており、情報を発信するインフォメーション機能をもつ壁「みんなの壁」として設置しています。内容は、豊栄にまつわる魅力を地場企業と地元の学生が共同で企画し、模様替え作業も季節に応じて行っており、この施設が常に更新されることで、利用客と時間を経ても尚つながっていくことを目的としています。
既存の柱や梁はもとより、既存の開口部や建具を可能な限り残しながら「少ない手数で空間の魅力を最大限引き出す」デザインにし、手バラシの解体や清掃や艶出しなど自分達で出来る作業は、建築家をはじめ、地元の学生も率先して取り組んでいます。解体からでた廃材で作った野菜ケースやカウンター、地元の土を混ぜて作った土壁づくり、栄屋百貨店の押入から出てきた懐かしいタイルで作ったコースターや洗面所など、すべては「ここにしかない」資源を生かした空間演出のアイデアで満ち溢れています。
プロでないにも関わらず、木工事、左官、家具作りなど様々な作業を共同で実践しながら「ものづくり」をより身近に感じてもらうことで「クリエイティブな思考」を地域に芽生えさせるきっかけをつくることが出来ました。資源に「価値」という命を吹き込むことができる一人ひとりの大きな精神は、いずれ再び地域に賑やかな灯りを点してくれることに大きく貢献するという貴重な教育の場になったのではないかと思います。
同じ棟の一部を利用し、豊栄の点在する観光資源をつなぐためにサイクルショップを併設したり、2階を行く行くは宿泊できるようにリノベーションしたりと、今後はこの地域交流拠点「豊栄くらす」から新しい魅力を発信し、生まれてくる新たなアクティビティに幅広く活用されていく予定です。
広島県東広島市の中心「豊栄」には和やかな人の温かさと豊かな自然環境があります。
しかし、過疎化、高齢化が進み、かつてそこにあった経済的な活力と、健全な地域社会は、時代の流れとともに失われつつあります。
「豊栄に関わるすべての人を幸せにする。」
その為に私たちは「持続可能性」の部分を再び生み出す必要があると考えました。
まず私たちは目的達成へのファーストステップとして、古民家再生をし、経済活動・情報発信・交流拠点となる「豊栄くらす」を作ることを始めます。
おかげさまで今もなお浸透していき、地域住民の人だけでなく、遠方からも多くの人にお越し頂いております。
今後もこの豊栄くらすで行う様々なイベントや活動を通して、人と地域をつないでいきたいと考えています。

建設地広島県東広島市豊栄町
構造在来工法
階数二階建て
延床面積205.58㎡
家族構成非公開