終末長屋の再生

【 第4回 古民家再築部門 】

終末長屋の再生

月島の西仲通商店街の裏路地に軒を連ねる長屋群の一角。
関東大震災後、労働者向け住宅として連棟でいくつも建てられた間口2間、奥行き3.5間2階建ての長屋を、単身世帯・若い夫婦向けの現代型の住宅に改修しました。
雨漏りし放題で埃まみれの倉庫として使われていた長屋も、まだまだ保存しながら使い方があるぞと奮闘しました。
コンパクトな間取りの中でも、生活の豊かさを加えていきました。小屋梁を出して日の光の溢れた開放感を出したり、2×4材の階段手すり兼梯子で登る三角形の屋根裏をつくるなど、多目的な都市生活に順応し、住み手が安らぎと住まい方のアイデアを見つけ出すような仕掛けをつくりました。
喧騒とした都会の中で、町並みの遺産となっている長屋群を保存しながらも、現代の都市の暮らしに順応する解体直前の終末長屋の再活用プロトタイプを作りました。

前面の道は自転車や植木や洗濯物など生活の一部があふれ出しており、ちょっとした共有庭となっています。

誰でも通り抜けられるプライベートな庭路地。

外壁は水でふやけた下見板張りをどうしたもんかと考えて、
アクセントと通り抜けの動きに呼応するリズミカルな乱貼りのタイルを貼りました。
また、木造密集地区における防災上の不燃化対策にもなっています。
既存の扉も上から不燃木で囲い、少し挑戦でしたが玄関をすっきりさせるために
内引きの引戸扉として、玄関土間を作りました。
抜け道として通り抜ける歩行者に対しても、安心感と清潔感のある玄関の顔となりました。
狭い狭い長屋を、最大限に活かすために、間仕切りや収納は極力なくしました。
キッチンは足元を開けることで足先を台下に差し込め、家族が集えるカウンターにも使われます。
四角く撥ねだしキッチンは、少しオブジェ的でもあり、
足元は母親におねだりする子供がすっぽり納まる居場所にもなっています。

玄関を開けて半畳の土間床と腰壁の奥に、キラッと見えるダイニングスペースは、
古い長屋の梁組と柱の中に現代的なお客をおもてなす設えとして、
閉じてしまいがちな生活に、訪問者を受け入れながらも食生活と家族団らんを充実させる仕掛けとなっています。
1階の突き当りは、在来の古びたお風呂と錆び朽ちたステンレスキッチンが転がっており、段ボールが山積みの倉庫となっていました。
水回りを極力使いやすく清潔感のあるものにしてほしいというお施主様の要望から、
2間間口にユニットバス、トイレ、洗面台をぴったし入れ込み、間取りを整理しました。
全ての扉を開けると水回りのこの3点セットは一続きに繋がります。鏡張りの収納棚を開けると既存の窓が現れ、湿気を換気できる仕組みです。

銀座にも近い立地の都市に囲われた長屋を、賃貸戸建住宅に存続しようと決めたお施主様と、
現代的な暮らしに合う計画をと、念入りに間取りや計画を練りました。
結局自ら住んでしまおうかなとおっしゃったお施主様の一言で、ほっこりした気分で建物を引き渡しました。

建設地東京都中央区築地
構造在来工法
階数二階建て
延床面積49.00㎡
家族構成30代夫婦と幼児