蔵、土間
【 第4回 古民家再築部門 】
徳島県板野郡は旧吉野川が通る農業が盛んな地域で、計画地周辺は畑や田んぼに囲まれた昔ながらの古い街並が続いている。敷地内には母屋、蔵、納屋、離れ、倉庫等が点在し、そのなかで築100 年の蔵は老朽化が進み、納屋は柱が傾くまで朽ちていた。納屋は取り壊してもよいが、蔵には特に思い入れがあるのでできれば残してリフォームしたいと依頼を受けた。
要望としては、蔵の入口は小さく段差があり物の出し入れがしにくいため、蔵がいらないもの置き場になっているのを解消したい。農作業用具を置いたり、収穫した野菜等を干したりする土間が欲しい。息子や孫が帰って来たときに気兼ねなくゆっくりできるスペースを用意したい。これらを解決するため、納屋を取り壊して、蔵を増改築することになった。
蔵の基礎・柱・梁を補強しつつ、できる限りそのまま利用することで、慣れ親しんだ蔵を残しながら快適かつ安心な空間を実現した。
また、建物真ん中に位置するひかり土間からの採光は、両側の蔵に明るさをもたらし、昼間は照明のいらない明るい室内となる。
さらに、様々な用途に対応できる土間スペースを設け、仕切りを建具とすることで、家族構成や使い方に応じて臨機応変に対応できる空間とした。夏は建具を開け放つことで建物全体の風通しがよくなり、涼しく過ごすことができる。冬は建具を閉めることで気積が小さくなり、ひかり土間・うち土間が緩衝帯となるため居間で暖かく過ごすことができる。
そして、土間の入り口を母屋の勝手口の正面に配置することで、人の行き来や物の運搬をスムーズにし、母屋との適度な距離感を保つような計画とした。
100 年間の家族の思いが詰まった蔵は、形はそのままに、仕上げには昔から使われている自然素材を利用して、この場所にもともとあったかのような、地域になじんだ建物に生まれ変わった。今後は、年月を重ねるとともに変化していく様子を家族や地域の方々に楽しんでもらいたい。
建物真ん中に位置するひかり土間からの採光によって、両側の蔵に明るさをもたらすことで昼間は照明がなくても明るい室内となる。 そして、夏は建具を開け放つことで建物全体の風通しがよくなり、涼しく過ごすことができる。 冬は建具を閉めることで気積が小さくなり、ひかり土間・うち土間が緩衝帯となり、居間で暖かく過ごすことができる。 |
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居間からうち土間を見る。 既存の柱・梁と漆喰の壁を使用することで落ち着いた安心感のある空間となる。 |
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竣工後のお施主様の思い ・荷物置きになって倒れそうだった蔵が、きちんと補強されて生活の一部として使えるようになってとても嬉しい ・蔵なのにひかり土間のおかげか明るく、過ごしやすい ・息子や孫が帰って来てくれる回数が増えて、家族の時間が増えた ・土間を多くとってもらったので、畑の作業をするのに使いやすい |
建設地 | 徳島県板野郡板野町 |
構造 | 在来工法 |
階数 | 平屋 |
延床面積 | 51.43㎡ |
家族構成 | 60代夫婦 |