未来をはぐくむ古民家「ついどはん」

【 第4回 古民家再築部門 】

未来をはぐくむ古民家「ついどはん」

洲本市との域学連携活動として、市に寄付された築100年を超える古民家(旧高田邸)を、建築学を学ぶ大学生が設計から施工まで携わって再築しました。
地元の設計士さん、施工管理者さん、大工さんにご指導いただきながら母屋、長屋門、蔵を1年半かけてリノベーションしました。また、長屋門と蔵については耐震診断も行い、原状維持を前提とした耐震改修方策を検討しました。
母屋は様々な用途で活用できるよう、使い勝手のフレキシブルさを意識して設計を行いました。また「里床」と名付けたウッドデッキを新設し、のどかな里の風景を眺めることができます。
牛舎や納屋として使われていた長屋門は、宿泊が可能な施設に改修しました。
学生の立場でありながら木工事、左官、家具作りなど様々な作業をさせて頂いたことで、資源を大切にする環境共生マインドの涵養に大きく貢献するとともに、図面や模型でしか建築空間を考える機会がなかった学生にとっては実践的な能力を養う貴重な教育機会となりました。
また、作業中、地元住民の方には差し入れを頂いたり、あたたかな支援を頂きながら完成に至り、地域の魅力を再発見することができました。
今後は地域の魅力発信拠点や地域住民の交流拠点、宿泊施設として幅広く活用されていく予定です。

古い柱や梁を可能な限り残しつつ、壁は漆喰や土壁で塗り直し、キッチンなど設備周りは新しいものに改修しました。キッチンスペースは多くの人たちが集って一緒に調理を楽しめるようにアイランド型にしています。
玄関を入ってすぐ、上を見上げると立派な小屋組みが見えるよう、天井板をはずし吹き抜けにしました。右手には日本の四季をイメージした土壁のレリーフを学生自らがデザインし、左官作業で描きました。
看板や室名表示板等は建物の雰囲気に合うようにロゴをデザインし、作製しました。
家具類は蔵にしまわれていたものをきれいに磨き、母屋の家具として再利用しています。庭石や屋根瓦も再利用し、中庭を整備しました。
元からあった建築資材を最大限再利用することで、古さと新しさが融合した心地よい空間になりました。
蔵として使われていた建物を地元の人たちがワークショップなどの活動の場に活用できるようにリノベーションしました。
ファサードの一面は思い切ってガラス張りにし、屋外とのつながりを生み出すとともに、採光を確保しました。
室内は2階の床板を一部撤去し、小屋梁を見せ、2階部分には残されていた古い農具を展示しています。
夜になると明かりが外にあふれだし、地域のランドマークになっています。
地域の多様な世代の人たちが集い、交流する居場所になっていくことで、未来を担う世代が育っていってくれたらいいなと思います。
洲本市では、地域活性化に向けて地元住民と都市部大学が連携する「域学連携事業」に取り組んでおり、京都工芸繊維大学さんはこの事業の連携大学として、旧高田邸の改修作業に携わっていただきました。延べ541名の学生さんが、約1年半にわたり、地元の住民、工務店、設計士と一緒になって考え、汗を流していただいたおかげで、築100年超の古民家は「ついどはん」として素敵に生まれ変わりました。梁の見える吹き抜け、土壁、ウッドデッキ、蔵の透明外壁、古い農機具の展示など、随所に学生さんのアイデアが光る仕上がりに、地元住民、特に子どもたちからも愛される施設となっています。完成お披露目会での地元の子どもたちによるクラシックコンサートは、古民家の雰囲気と相まって大好評でした。農林水産業の発信、新規就農希望者の受け入れ、都市部住民との交流等を図っていくための拠点として活躍する「ついどはん」の完成を、関係者一同たいへん喜んでいます。

建設地兵庫県洲本市五色町鮎原下511
構造伝統構法
階数平屋
延床面積264.92㎡
家族構成洲本市役所が所有