わが家にもう一度、人生を

【 古民家再築部門 】

わが家にもう一度、人生を

日本史で習う元寇弘安の役で蒙古軍の船が沈んだ海(伊万里湾)を囲むように長崎県松浦市はあります。その海に面した路地に漁村や商家が集落を形成しています。
この建物は、昭和2年(築92年)で利用者がいないことから解体を計画されていましたが、老朽危険度の判定の結果、市の解体補助金の対象にはなりませんでした。
当時、市の建築技師として老朽危険度判定でこの建物を拝見した際に、外部や屋根は劣化しているが、構造はしっかりしているのでまだ活用できる可能性あることを説明しまた。
それから、2年後、市役所を早期退職し設計事務所を開設したわたしは、この建物がずっと気になっていました。まだ、放置されてままです!
よし、「わたしが再生させよう」と決心し、所有者に相談にいきました。「建設当時の面影を残します」「商店として賑わっていた時のように多くの人が出入りする建物に復活させます」と約束しました。
所有者は、「わたしが生まれ育った家の姿が残って、まちの賑わいに貢献できるなら」と快く譲ってくださいました。
すでに解体されている商店部分(明治築)と当該建物は、中庭を通って通り土間で繋がっている造りになっています。商店の土間に敷かれていた石は、全て庭に再利用しました。
1階を貸店舗に2階をレンタルスペースとして多くの方に利用してもらえる用途にリノベーションしました。この地区は、泉地区と言い、今でも水が湧く共同井戸があることからこの家を「泉の家」と命名しました。
この地域(路地)には、古民家が点在して残っていることから、「泉の家」が古民家リノベーションのモデルとして参考物件になればと考えています。
「思い出の家にもう一度、人生を、まちの景色として生き続けるために」

残っていた建具は、ガラスを含め建設当時のまま利用しています。利用不可能な建具は新設しましたが、塗装はせず年月の経過により自然に風合いが追いつくのを待ちます。
入口の引き戸には、以前の屋号「横山商店」「電話十八番」と磨ってあり、商店であったことや電話番号が二桁だったころの時代を物語ってくれます。
屋根瓦を葺き替えた時に降ろした鬼瓦は、魔除けとして玄関脇に備え付けました。鬼瓦には、施主の名前「卯三郎のウの字」が刻まれています。
元の所有者やご近所の方からは、完成した「泉の家」を見て「懐かしい」「そうそう、土間に石が敷いてあった」等の感嘆の声が上がりました。
細工が綺麗な木の手摺には、アルミサッシは似合いません。撤去し木製建具に替え、木製の雨戸を付けました。
建具は、引き込んで全面開口になります。この窓からは、海が見えます。潮の香がし船の汽笛が聞こえます。
手摺に肘を掛けて床に座れば、潮風に吹かれてゆったりとした時間が過ぎていきます。落ち着く場所です。
床は、杉無垢板の無塗装品を張りました。無塗装としたことで杉の柔らかさと温かさが足裏に伝わります。
2階のレンタルスペースでヨガ教室が開催されているところです。
利用者の方々からは、木と土の香がしてリラックスできると大変好評で毎月ご利用いただいています。
はじめての利用者は、伝統構法の立派な木組に感動されて「わーっ」という第一声を必ず上げられます。
元の所有者との約束どうり形を残し、賑わいを取り戻す第一歩を踏み出せたと思っております。

建設地長崎県松浦市
構造伝統構法
階数二階建て
延床面積175.33㎡
家族構成レンタル古民家