土蔵に住まう

【 第8回古民家再築部門 】

土蔵に住まう

伝統的な蔵造りの力強さをそのままに、現代的な住宅へ。大阪市内にある築約100年のこの蔵は30センチ以上の厚みを持つ土壁に守られた立派な土蔵だった。長年、単なる物置としてほとんど使われていなかったが、娘さんの為に蔵を再生したいという施主の強い想いで再築することとなった。設計段階では、暗い内部にトップライトを設けて採光し、木組みの美しさや、土蔵の歴史を感じられる2階部分にLDKを配置した。木組みはどの梁や柱も大きく力強い木材だったが、所々白蟻被害や雨漏りで土壁とともに崩れている腐食部があり、さらに全体で10センチ以上も傾いていて、そのままでは到底使える状態ではなかった。工事は揚屋をして建物を水平に戻し、土台を補強するところから始まった。蔵の元の姿をなるべく保ちながら、補強や修復をし、そして新たに住まいとして進化させる過程は容易ではなく、施主、設計、現場監督、職人が一体となって建物との対話を繰り返した。

階段の吹き抜けの一部をガラスの床にし、1階に光を採り入れた。新たに開けた窓部分は雨漏りで崩れてしまった土壁部分を利用している。玄関周りの壁は、古い木材との調和を図り、版築風のゆらぎのある炭モルタル壁で仕上げた。重量のある材料と暗めの配色で、1階部分は蔵が持つ重みを表現することで、吹き抜けの階段を登り2階に上がった時の高い木組みの屋根構造を見る開放感を際立たせる仕掛けとなっている。
玄関は観音開きの鉄扉と重厚な木製建具の引き戸をそのまま活かし、木製建具は重く開き辛かったので上吊りのソフトクローズへと機能的に改修した。モルタル壁だった外壁は、焼杉板と漆喰を塗り仕上げ、外部の床はグレーの人造石研ぎ出し仕上げとすることで伝統とモダンの共存を目指した。
蔵をなんとか再生し、活かしたいというお施主様の強い意志がなければ到底完成しなかった改修工事でした。設計的な提案や施工中の様々な難しい部分も前向きに取り組んで頂き、感謝しています。この土蔵の様な日本の伝統建築をむやみに壊すことなく、未来につなぐことが出来、嬉しく思っています。

建設地大阪府大阪市生野区
構造伝統構法
階数二階建て
延床面積121.4㎡
家族構成60代夫婦 20代娘