職人浪漫の家

【 第10回古民家再築部門 】

職人浪漫の家

高齢になったこの家の所有者から「あなたなら良いようにしてくれるだろう」そう託され預かった古民家でした。
長く空き家となっていて、家の傷みも随分ひどかったけれど、持ち主の思いとこの家を建てた職人の思いがこのご縁を繋いでくれました。

今の住宅では見ることの少なくなった大きな材でできた昔ながらの古い家。
自然界で自由にのびのびと大きく育った松を丸のまま使った梁には、かつての職人たちの一振り一振り手斧の跡が生きている。

”大正十五年九月十二日”
棟木には、上棟日と施主、携わった職人たちの名前がリアルに明記されていて、今にも彼らが声を上げてくるかのように家の息吹を感じます。
地域の様々な建物を建ててこられた名のある棟梁が建てた家でした。

「古ければ古いほどいいんです」
「長く住まえる家がいいんです」
お施主となるお若いご夫婦が求めていた家でした。
古民家を大切にしてくださる方とのご縁の瞬間。


《安全に長く豊かな暮らしを》
90余年の月日を超えて今。
これからまたさらに100年を長く安全に、そして快適に家族が過ごせるように、スタンダードは自然乾燥した地域材を使用。
構造材の交換には、同じ年代の古民家に使われていた古材を再利用しました。

土葺きだった屋根は、現在の陶器瓦に葺き直し、土の断熱性能は、断熱材を余計に敷くことで代替え。
建物維持のために床下は塞がず、意匠的なデザインの木製床下換気口を設けました。
壁には漆喰や珪藻土を使用し、家に入ると最初に目に留まる壁にはモダンに変化をつけてお客様をもてなします。
和室の畳も自然素材にこだわり、地域の本畳を採用し清涼感が溢れます。
完成見学会では、雨の日にも関わらずジメジメしない心地よさにお客様みんなで驚きました。


《持続可能な循環型》
古民家の再生では、【SDGs】を理解するにはぴったりの学びです。
山を育み、木を生かし、手が持つ技術も受け継がれて行く。私たちは自然を知り、自然の循環の中で生かされていくことに気づかされます。

天井や建具などにおいても使えるものはそのまま残し、新しい建具も以前の建具に使われていたガラスを再利用したり、いたるところに生かす工夫がなされています。
2階の垂木と屋根板は、施主さん自ら塗装に参加、家族の部屋の壁もDIY教室で体験し、実践されます。
愛着を持って家とともに在る。それは生活を豊かにする極意ではないだろうか。

こうして自然素材を扱い、手刻みで手間暇をかけて、再築を進めていると必然的に地域との交流が生まれます。
「生まれ変わったね」「良くなったね」日々の変化に近所のみなさんの楽しみにもつながり、新たにこの家の顔ができてきました。

棟木を見ると、当時の職人方の笑顔が不思議と思い起こされます。今はもうすでに居ない方々の息吹。
時を超え、この時代を生きる人々へ、これまで受け継がれてきた家族の歴史へ、敬意を込めて。
また引き継ぎ、未来へ渡す。
これまでもこれからも古民家はそうあっていくのです。


お施主様より
「長く住み続けられる家」「受け継がれていく家」「自然を感じながら暮らしたい」と思いながら探し求めて、やっとこの古民家に出会えました。
最初に古民家に入った時、 ”家が生きている” と感じました。そして、2階の梁を見た瞬間『あ!この家だ!決めた!』と直感しました。
あの時、棟梁に出会ってよかったと改めて思います。
完成見学会では、地域の方々や住育学校で共に学んだ方たちなど、本当にたくさんの皆さんに来訪していただきました。皆さん、家の心地よさに時間を忘れてゆっくり過ごしていかれ、笑顔が絶えない一日でした。
きっとこの家と先人達は、昔からずっと愛されていたんだなと思います。
そんな家に住まえることをとても誇りに思いますし、この家にふさわしい生き方をしていきたいと思っています。

建設地福岡県八女市上陽町
構造伝統構法
階数二階建て
延床面積187.83㎡
家族構成20代ご夫婦