曳家をともなう古民家ゲストハウスの再築/沢のいえ

【 第10回古民家再築部門 】

曳家をともなう古民家ゲストハウスの再築/沢のいえ

 オーナー、曳家工事業者、施工工務店、設計者の希望と知見を総動員した「曳家を伴った古民家の再築:再生」です。
山間のどかな立地、敷地境界に沿って沢筋がありせせらぎの音さえ縁側には届きます。
広い敷地内には、オーナーが居住するに十分な別棟が既存しており、本計画はこれまで受け継いできた旧家・古民家の母屋を解体し、伝統工法でゲストハウスとして再建する予定から始まりました。

 過去に数回の増改築の手が入っておりながら、その核たる躯体には無下に喪失するにはあまりにも惜しい先人の匠がありました。
設計者と施工工務店とは既に2、3案件の古民家再生の協働実績がありましたので、再築:再生を提案させていただいた次第。
さらにオーナー旧知の曳家工事業者(今回基礎工事も全面担当)も動員されて配置の変更も実現させる事となりました。
敷地内を工程に応じて縦横にオフセット移動。X、Y、Z座標方向へ…日本の木造建築工法の機動力の妙に触れ感慨深いです。
 
設計者としては「レスタウロ」巧者の先人カルロ・スカルパの、古き良き物を素材のひとつと扱う精神を憶い、臨みました。

 かつて、空間の中に存在していたであろう丸太組の横架材は、天井懐内に息を潜めていました。
実測調査で外部から躯体の様を推測するうちに、天井を剥がさずともそこに存在するを察知して、玄関、居間、お勝手と小割りに分節された先回リフォームから全てを解放。
ワンルーム化によってその全貌を表し、空間のタイトさを上方へ気積を増して和らげました。

 さらに裏動線に流動的に解放して、旧来からの座敷の連続という単調な地方特有のプロトタイプを改変し、周遊できる古民家に再構成しました。
極力既存躯体利用を前提に、構造壁を補足して。
無駄なエアポケットを生じることが無いように。
ゲストハウスとしての役割、機能重視ゆえオープンカウンターの背後にはIHレンジのシステムキッチンと業務用ガステーブルを並置配備しています。
ファンも各々に対応して2台。それがあまり主張し過ぎぬよう配慮して壁をプランしています。

裏動線に沿ってサニタリーが控え、通風や彩光を四方に通じるよう確保しつつオーナーの寝室である奥の間へと通じます。
南には、縁側と続き間の座敷というお馴染みの関係を仕上げ材料の更新にだけ徹底し、従前の空間形態を残しました。

これが、かつてからの縁側の有り様を変えることなく印象させています。
沢の水音もそのままに。
 オーナーは当初、自家所有の山から木材を切出し、製材にて伝統工法で建てたいという希望があったとお聞きしました。
指名の施工工務店の棟梁はこれに臨む直前、2〜3年をかけて、その方法を絶って希望する方の伝統工法住宅を、疲労困憊のうえ竣工させていました。
命に関わるほどの労苦を再度トライすることを躊躇する中、設計者と共に既存古民家を拝察しその再生利用価値の高さに「再築・再生」の有意義を提案するに至りました。

 オーナー自身も、古いものや骨董に嗜好をお持ちで「やってみましょう!」と了解いただき実現しました。
木をふんだんに使いたい、材の選定にも参加したいといったご希望も叶い、日に日に馴染んで大変満足という声をいただいています。

建設地福島県いわき市内郷高野町
構造在来工法
階数平屋
延床面積157.70㎡
家族構成非公開