大正時代・武芸川の庵

【 第10回古民家再築部門 】

大正時代・武芸川の庵

岐阜県武芸川町の道の駅ちかく、静かに佇む築90年余年の大正時代の古民家。施主様の実家であり、呉服店を営んでいた。2年前から空き家となり売るつもりだったのだが、レベル調査により、木がすべて水平垂直を保ち、腐朽もない良い状態と判明。緑豊かで広々した土地で、セカンドライフを楽しむため再生。写真)階段と100本格子は磨いて再塗装をしただけ。東の座敷と西の居住スペースをつなぐため土間に渡り廊下をかけた。

玄関の広い土間。玄関東の座敷は縁側をなくし10.5畳の広いゲストルームに。北には布団などの5畳の広い納戸を作った。壁は3日かけて穴を埋めた後 黒漆喰塗。床は割れたモルタル土間を掬って、石端建の基礎を見せたまま、瀬戸のタイル張り。建具は、既存の昭和の建具を着色して 枚数を減らして配置し、メインの4枚戸は西の座敷と縁側の雪見障子を転用し華やかな様子に仕上げた。
4畳のキッチンと、8畳のダイニングは、以前は畳の部屋で、リビングソファの位置は縁側だった場所。全ての床を取り払い、床下を防湿・断熱し、1本だけ5cm下がっていた柱をジャッキアップし、バリアフリーかつ床暖房で温かく使いやすく仕上げた。写真左)一間幅の壁をあえて立ち上げ、TVやステレオが置ける使いやすい壁を作った。天井は2Fの床板の裏がそのまま見えているが、スチームをあて、1週間かけて磨き続け、鈍く光る古材の味わいを出した。
古民家鑑定士や伝統再築士の皆さんが現地調査に来られた時、「これは、いかにもプロだ」と感じました。2年で18件、不動産屋が買い手を紹介してくれましたが、ネガティブなことばかり言われ、悲しく思っていました。が、岐阜支部長で一級建築士の吉田さんが「これはいい家だ、ぜひ残してください。」と言われ、売るのをやめて自分で使おうと決意し、大規模に直していただきました。工事中は毎日楽しく、2時間3時間、大工さんの作業を見ていました。再生協会の皆さんの仕事は本当に心がこもっていて、私以上に愛情をもって作業をしていただいたのがうれしく、本当に感謝しています。断熱も良い素材を外から施工していただいたので、冬も寒くありません。少しでも家が歪んでいると、大工の岡部さんが真剣に直してくれ、特に家の中心の梁を上げたり、屋根の破風を治していただく時の丁寧さには舌を巻きました。あんなこと頼んだかな、ということまでやっていただいた出来上がりは、妻や姉はもちろん、遠方のむすめやカフェ経営の息子にも喜ばれています。先祖の家を、売ってしまわず使うことにして本当に良かったと、今では感慨深く感じています。工事途中に、この家を建てたおじいさんが載った家族写真が発見されましたが、この家の守り神として座敷に飾っています。

建設地岐阜県関市武芸川町
構造伝統構法
階数二階建て
延床面積201.63㎡
家族構成70代夫婦