家族をつなぐところ

【 古民家再築部門 】

家族をつなぐところ

かつては四人の兄弟とご両親、そして祖父母と、8人で賑やかに暮らした家族の思い出の詰まった家でした。
しかし、冬は寒く風が吹くとガタガタと音がするサッシ、至る所にある大小さまざまな段差、日中でも暗い室内、浴槽を直接焚いて温める五右衛門風呂、湿気の多い室内、等々、もっと良い生活ができるようにいつかは改修をしようとお父さんが年々少しづつ準備をしてきました。
でも、そのお父さんは今は居ません。
夫を亡くし落ち込んでいるお母さん。
再び家族が集まり、孫たちを迎えて、かつてのような賑やかな暮らしができる様、お父さんの思い出のたくさん詰まった家を、お父さんの「思い」を引き継ぎ、更に次の世代にも引き継げるように、息子たちは立ち上がりました。
かつてこの家を建築する際に、お父さんが自分で多くの材料を集め、信頼する大工さんに頼んで建ててもらった、思い出のたくさん詰まった家。
思い出のたくさん詰まった材料は可能な限り再利用し、数多くあった段差も解消、使いにくかった水廻りは最新鋭の設備に、お母さんはもっと元気になるように明るい南の部屋に、そこには車いすでも使用できる洗面台を設置してあります。下屋部分を長くして夏の暑さ対策も。
一方で各部屋のプライバシーを確保し、断熱性能も確保、床暖房を設置し、サッシも入れ替え、冬の寒さ対策も万全。
心配な耐震性能ですが木造軸組は各所を補強し、無筋コンクリートの布基礎は外周部をふかし鉄筋を入れた最新の補強方法を行いました。
湿気の多かった床下は防湿コンクリートを打設し換気経路も考え、湿気対策も万全。
たくさんの思い出の詰まった家族の家を、現在の技術で、次の世代までつなげるようにしたリノベーション。
再び賑やかなこの家での生活が戻ってきました。
玄関脇に植えられたお父さんの愛した松も心なしか楽しそうです。

みんなの集まる場所である和室とリビング。
再利用された欄間はライトアップされ、家のほぼ中心で家族を見守ってくれています。
和室には掘りごたつ、模様入りの畳がアクセントになっております。リビングも含めて日本の「和」の雰囲気を残しながら近代的な内装に仕上げてあります。
窓から外を眺めればお父さんの愛した庭、一歩外に出ればデッキの上で直に庭を感じ取ることができます。
遊び盛りの孫たちが部屋から出て庭で遊んでいるのを見ながら家族で過ごしている様子が今にもうかんできそうです。
和室にあった違い棚も再利用、現在の大工さんの技術で可動式の棚に、新築当時の大工さんが造った玉入りの加工も生かしています。
神棚は屋根を再利用。現代の大工さんの技で新しく造ったもち送りの棚との色の違いが今は目立っていますが、この家を次の世代に引き継ぐ頃にはいい色になっている事でしょう。
天井にはスピーカ付きの照明を設置し和室からでもTVの音を聞くことができます。
玄関ホールでは、当時の大工さんが手加工で作った玉入りの柱が。
今までは階段下部で家族を見守ってきましたが、現在の大工さんにより玄関に移設され、家族やお客様を出迎え、そして見送りをしてくれています。
新築時代から多くの家族を見てきたこの柱、今度は明るくなった玄関で、次の世代の家族までも見守ってくれるでしょう。

お父さんの思い出の沢山詰まったこの家は、立派に育った息子たちがしっかりと支えてくれています。

そしてその時代の技術を生かしながら、いつまでもこの家を引き継いでくれることでしょう。

お父さんが家族のことを「思い」、ずっと考えてきたリノベーションの計画は、その「思い」を受けた子供たちとその家族が、お父さんのことを「思い」、ここに完成いたしました。

建設地福島県福島市
構造在来工法
階数二階建て
延床面積171.38㎡
家族構成兄弟四人(夫婦)、母親