蘇る先代からの住まい

【 第6回 被災地部門 】

蘇る先代からの住まい

「取り壊す前に、一度見てください。」熊本地震後の無料相談で出会った代々続く農家のお住まいは、
大規模半壊の罹災証明を受け解体予定でした。
瓦が損壊、漆喰が剥がれ、外壁の海鼠壁は落ち、北側はシロアリ被害も見受けられ、床は下がり、増築部分と境は雨漏れしていました。

立派に黒光りした太い柱や梁を拝見し、壊してしまうのはもったいないと、床下や小屋裏の調査に入り、修復可能とお伝えした時のご主人の安堵のお顔は忘れられません。

末長く住み継いで頂くために、伝統構法の復元力特性をいかした耐震補強に加え、土壁の通気性を生かす杉の断熱材を用い快適性アップ。
通風採光のためのトップライト、内部のバリアフリー等、暮らしやすさの改修も合わせて行いました。

床の間は、元気が出るようにと、ベンガラ入りの赤漆喰で修復しました。地震で割れた欄間や建具も出来る限り修復し再利用することで、先代からお住まいの息吹を継承しています。

土間の通風や風情はそのままに、玄関ホールへと改修しました。

式台は建設当初の板を磨いて用い、
舞良戸は袴を履かせて、収納扉に再利用しました。

アイストップには竹格子、
天井には大きな梁が、来客を温かく迎えてくれます。
北側の暗い台所を、瓦ガラスのトップライトで明るくし、
杉板のカウンターでダイニングの雰囲気も明るくしました。

組子の欄間は、先代からのものを部分補修し、再利用。

古材の黒色と新規の白木の組み合わせが
修復形跡のデザインとなっています。
地震後の罹災証明で、「自分の代で、代々住み継いできた家を壊すのは忍びない」と、当初は落ち込んでおられたご主人が、耐震補強をして修復し住み継ぐことを決められた後は、とても元気な笑顔になられました。

壊れたところを解体して、修繕工事に入ると、大黒柱の下には大きな基礎石が敷かれているのを、感慨深くご覧になっておられました。
修復の過程で、いろいろな打合せをする中、「ここも明るくしたい」とトップライトの位置のアイデアや、メガネを置くスペースが欲しいとニッチのデザインを提案して下さったりと、積極的に住まい修繕にも参加されました。

地震後の壊れた部分の片付けや、先代からの荷物の整理もされながら、休むことなく農業を続けられたご家族には、頭が下がる思いです。
美味しい熊本のお米を頂けるのは、農家の方の頑張りがあってこそと、設計監理者も最大限のサポートが出来たら、という想いで、工務店さんと一丸となって取り組ませていただきました。

完成お祝いの席では、ご親戚からも感謝のお言葉をいただきました。
周りがどんどん解体され、新築されていく中、余震も続き
当初は修復するかどうか、ご親戚の皆さまも一緒に悩まれたことでした。

最初は、そんな思いに寄り添うことしか出来なかった私達です。
激しい揺れの中、倒壊を免れ、命を守ってくれた先代からの
この伝統家屋に、関わらせていただいた私達こそ、感謝の気持ちで一杯です。

建設地熊本県上益城郡甲佐町
構造伝統構法
階数二階建て
延床面積241.11㎡
家族構成非公開