古民家のぬくもりを後世にも
【 第6回 被災地部門 】

夏目漱石の処女作『吾輩は猫である』が連載開始された1905年(明治38年)に建てられた古民家。ご高齢のお母様がお住まいの築113年の歴史ある建物が、2016年(平成28年)4月に起きた『熊本地震』により被災。代々住み続けてきた家だからこそ取り崩すことなく、住み続けたいという強い想いがありました。息子さん・娘さんも同じく、古民家の良さを残しつつ現代の生活に合わせた住みやすさをプラスすることで、これから先も代々住み続けられる家にして欲しいという施主様のご希望。そんな想いを守る為に、職人達もなるべく元の素材を変えずに復旧してくれました。
全室漆喰壁の広々とした空間でありながら、光や風が通り抜ける繋がりのある空間。その時代にできた柱や床の傷が、どこか懐かしさと温かいぬくもりを感じます。また、芸術とも言える技を施した建具や床の間の細工は、貴重な財産でもあり技術の高さを物語っています。代々受け継がれてきた古民家は、そこに住む人々に守られながら忙しい現代人が『いつか帰れる場所』としてこれからもずっと生き続ける事でしょう。
<建物の顔でもある玄関ホール> 一番初めに目にする玄関とリビングの間仕切り造作建具。 4枚建ちの建具で両サイドに開ければLDKと一体化し、空間を広く感じられます。 また、破れにくい全面障子で、採光がありながら程よく光が漏れ、なんとも味のある雰囲気に仕上がりました。 昼間は自然光を取り入れ、夜は室内の明かりを反映する。一日の中でも時間によって表情を変える魅力的空間です。 味のある風合い豊かな床はそのまま残し、長年の使用で出来た傷がどこかぬくもりを感じます。 一方で、ご高齢のお母様でも楽に上がれるように上り階段を2段新設し、後にスロープなども設置できるように設計しました。 |
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<LDK> 後世に残したいものと、現代にあった住み心地を一番感じられる場所。 昔ながらの圧迫感のある低い天井は吹き抜けにし、古材の梁がお目見え。現れた斜めの天井は空間に広がりを与え、開放感が増しました。 年月と共にグレーに染まった漆喰壁はすべて塗り替え、新築当初の白さを思わせる復元。 また、床断熱材を増やし現代の生活に合わせて水回りも改善。 ご高齢のお母様でも住みやすい間取りに少しだけ変更することで、懐かしさと暮らしやすさを実現しました。 家全体に補強した制振ダンパーと共に、キッチン側には耐震性を兼ねて面格子パネルを設置。 昔の職人の技と技術が詰まった建具は、時を超えて現代の職人の手により修復されました。 |
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<和室> 古民家ならではの聚楽素材は変えずに復旧し、珍しいブルーの聚楽を使用。 この深いブルーは、古材の柱の色との相性が良く趣ある空間に仕上がりました。 細かい細工の施された『組子欄間』と縁起の良い『松と鶴の彫刻欄間』はそのまま残し、光と風の通り道に。 庭の赤く色づいた紅葉を眺めながら季節を感じる広縁も、この空間の魅力の一つです。 |
建設地 | 熊本県菊池郡 |
構造 | 伝統構法 |
階数 | 二階建て |
延床面積 | 210㎡ |
家族構成 | 1人 |